小説

♦オールデイズ <3>☆


「凄いな」

公平の車に乗って来た水族館は、オープンして日が浅いということもあって混んでいた。普段は寝癖のついたままの公平は珍しく髪をワックスで整えている。誠はデジタルカメラを手に持ち、目を輝かせていた。入場券を買って中に進んでいき、暗い通路を抜けると大きな水槽が目の前に広がった。公平は近くにいた子供たちに混ざって水槽に近付いていき、誠はカメラのシャッターを押した。順路に沿って進んでいくと、ペンギンの泳ぐ水槽があった。公平はベンチに座り、鞄から小さなスケッチブックを出してスケッチを始めた。私はその隣に座ってその手元を見る。
スケッチブックにはペンギンの水槽があった。水槽の前には少年が立ち、何かを指差している。鉛筆と何本かの色鉛筆で描かれた簡単なスケッチにも関わらず、水槽のガラスには厚みがあり、ペンギンや少年が生き生きとしていた。

「上手いね」

「一応、美大生だからね。あおいも描く?」

渡されたスケッチブックに、私はためらいながら手を動かした。イワシの群れをシンプルな線で描いた。どのイワシも口を開けて泳いでいる。

「おもしろいね」

「そう?」

「色付けない?」

「付けなくていいや」

「そっか」

公平は戻ってきた誠にもスケッチブックを渡した。誠はサラサラと鉛筆を動かして、近くにあったベンチをリアルに描いた。

「上手く描けただろ」

「上手いけどさ」

「何だよ」

「うん・・・誠らしくていいと思う」

「なんだよそれ。
なあ、そろそろ次行かない?」

つづく




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