小説

♦前を歩く二人の手が☆



散歩中、手をつないで歩く老夫婦を見かけた。何年も前に奥さんが編んだのであろう毛糸の帽子を被った夫は幸せそうだった。
数日前、僕の隣を歩いていた彼女はど今何をしているのだろう。目も合わせずに歩いていたあの時、彼女はどんな顔をしていたのだろう。僕はもう遠くなってしまった彼女にふと会いたくなった。
その夜、久しぶりに手紙を書いた。悩みに悩んで書いた長い手紙。結局何が言いたかったのか分からなくなって、僕を知らない人が読めばきっと、はてなマークが軽く十個は浮かぶだろう。でも、彼女なら分かってくれると根拠のない自信を持っていた僕は、次の日手紙をポストに落とした。

しばらくして届いた彼女の手紙は、僕が書いたものに負けないほど長く、彼女を知らない人が読めばきっと、はてなマークが軽く十個は浮かぶものだった。
彼女の手紙を読んで分かったのは、彼女も僕と同じで会いたいと思っていた。それだけが言いたくて書いた長い手紙は、僕らが不器用だってことを分かりやすく伝えていた。
なぜか嬉しくなって書き出した彼女への返事は、これもまた長い手紙で。こんなにケータイやメールが発達している中、手紙を選んだ僕らは周りから見れば変だったかもしれないけれど、分かりあえてる僕らだからこれでよかった。
僕らはあの老夫婦の年になった時、誰と歩いているのだろうか。

あの日、前を歩く二人の手が離れなかったように、僕はいつかここに戻ってくる彼女の手を離さないつもりだから。
次の手紙にそう書きたくて、僕は彼女の手紙を待った。



end


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