小説 2

甘くないラブレター そのいち



君はいつだってそうだ。何も言わないまま考えを行動に移してしまう。アメリカに行くことを日本を出る当日に言われたって、俺に出来ることなんて限られてる。せめて、ゆっくり話す時間を作って欲しい。

タクシーで空港に向かう間、君のことで頭がいっぱいだ。俺が思い出す君は出会った頃の幼さが残るままなのに、いつの間に大人の女性になったのだろう。大人しく真面目な君は、時々誰にも予想できない行動を起こす。今回のアメリカだってそうだ。英語なんてほとんど話せないくせに。俺の知らない君が多すぎる。

空港にやっと着いて、君と待ち合わせをしている喫茶店まで走る。ゆっくり歩いてなんかいたら、俺が会う前に旅立ってしまう気がして。久しぶりに走ったから、すぐに息があがる。すれ違う人が驚いた様な顔をしていたけど、今は気にしている暇はない。そして喫茶店で見つけた、君に間違いない背中に安心感を覚えた。いつから俺は、こんなに君が好きになったんだろう。

「遅くなってごめん」

「こっちこそ、急な話でごめんね」

とりあえずコーヒーを頼んで、君の向かい側に腰掛けた。足が重く感じる。

「走ってきたの?」

「少しね。それより、なんでアメリカに?」

「会社の支店がアメリカに出来ることになって、それで本社から何人か行くことになったの。このこと隠していたかった訳じゃないんだけど・・・」

俯いてしまった君の次の言葉を待つ。周りがざわざわとしているのが耳に入ってきた。

「拓也に言ったら、行くのが嫌になると思ったから」

周りのざわめきに消されそうな君の声が、たまらなく愛おしくなった。

「だから、言えなかった。ごめんね」

「仕事なら仕方ない。どのくらい、あっちにいるの?」

「一年か二年。だから、待ってなくていいよ」

しばらく、言葉が理解出来なかった。その言葉がようやく理解出来た時、 君は席を立っていた。

「今までありがとう」

そう言って、喫茶店を出て行った君の背中を俺は無意識のうちに追っていた。

つづく

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